- 1. ヘリコバクター・ピロリって何?
1982年オーストラリアの医師ロビン・ウォレンとバリー・マーシャルが、強酸性の胃の内部に生息している細菌を発見しました。この菌をヘリコバクターピロリと命名したのです。
人への感染経路ははっきりと解明されていませんが、上水道への混入や井戸水の摂取が原因ではないかと考えられています。
その根拠として、いくつもの発展途上国の水道管の中から、ピロリ菌が検出されたとの報告があるからです。今までは胃酸のように強力な酸性下において、細菌は存在しないと信じられてきました。しかし、胃の中にある尿素を分解してアンモニアを作り出し、胃酸を中和して酸の攻撃から身を守り、胃の中で生き延びている細菌がいたのです。この菌が胃炎や潰瘍を引き起こし、胃がんの原因となることが突き止められました。- 2. どの位の人がピロリ菌をもっているの?
30歳代、40歳代、50歳代、60歳代のそれぞれの感染率は20%、30%、50%、80%です。
経口感染が主な経路と考えられています。
上下水道が整備されていないような地域や国では感染率が高く、日本は際立って高い感染率です(50歳以上)。
しかし、衛生状態が改善された今日、若い世代の感染率は急速に低下しています。- 3. ピロリ菌に感染するとどうなるの?
ピロリ菌に感染するとほとんどの人に萎縮性胃炎(いわゆる慢性胃炎)や潰瘍が引き起こされます。
ピロリ菌が胃の壁を傷つけ、ピロリ菌が作る毒素により粘膜がただれるためです。
ピロリ菌が長期間にわたり胃に感染していると慢性的に炎症が続くため、胃がんが発生しやすくなります。- 4. ピロリ菌は胃がんに関係あるの?
最近ピロリ菌と胃がんの関係について解明されてきています。
ピロリ菌が陽性であると、胃がんのリスクが高まります。
国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC study)の報告において、ピロリ菌陽性例では、ピロリ菌陰性例の約5倍胃がんが発生していることが確認されています。さらにこのうち、萎縮性胃炎の進んだ人に限れば、胃がん発生リスクは約10倍であることが明らかになっています。
ピロリ菌感染により胃粘膜に炎症が起こると、細胞に傷がつき遺伝子が変異してがん化が引き起こされます。
したがって、ピロリ菌陽性例では高率に胃がんが発生します。
(Sasazuki S, et al: Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.15,1341-1347,2006.)- 5. どうやってピロリ菌を見つけるの?
-
検査法は呼気をとって調べる尿素呼気試験、血液中のピロリ菌抗体価を調べる抗体/抗原測定法や内視鏡検査時に試薬を使って、その場で簡単に結果がわかる迅速ウレアーゼ試験などがあります。
診断および除菌判定においてどの検査を選択するのかは基準が定められています。 - 6. ピロリ菌の検査を受けるにはどうしたらいいの?
-
保険診療において、ピロリ菌の検査のみ行うことはできません。ピロリ菌感染の診断をするには、はじめに内視鏡検査を受けることが必要です。胃内視鏡検査をして萎縮性胃炎(いわゆる慢性胃炎)や胃・十二指腸潰瘍の診断がついた場合に限り、ピロリ菌の検査が認められているからです。ピロリ菌検査は胃内視鏡検査中に、迅速ウレアーゼ試験を行うことで調べることができます。陽性の場合、内服治療薬による除菌治療を開始します。
- 7. どうすればピロリ菌を除菌することができるの?
高い除菌率を得るために、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬PPIと2種類の抗生物質を同時に1週間服用する3剤併用療法を行います。これにより約80%の高い除菌成功率を得ることができます。
改善が見られなかった場合でも2次除菌治療薬を服用することで、やはり約80%の高い除菌成功率が得られます。
(Furuta T et al.:Clin Pharmacol Ther 81,521-528,2007
Hori M et al.:Helicobacter 16,234-240,2011)- 8. 除菌判定の検査はなぜ必要なの?
-
薬を内服すれば、100%除菌できるとはかぎらないからです。
1次除菌薬で改善が見られなかった場合、2次除菌治療をする必要があります。
除菌判定の検査は、通常内視鏡検査を必要としない尿素呼気試験を行います。
これは検査薬を飲んで、検査袋に呼気を吹き込んで膨らませるだけの簡単な検査です。 - 9. ピロリ菌の治療費は?
-
ピロリ菌の治療費は、胃カメラ検査・迅速ウレアーゼ試験・病理組織学的検査および除菌治療薬すべて合わせて、保険診療の自己負担3割でおよそ10,000円~15,000円です。